大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和24年(ヨ)117号 決定 1949年7月30日

申請人

全日本電気工業労働組合神奈川支部

東京芝浦電気株式会社堀川町分会

右代表者

組合長

被申請人

東京芝浦電気株式会社

主文

本件申請を却下する。

申請費用は、申請人の負担とする。

理由

本件申請の要旨は

被申請会社は、昭和二十四年七月十六日附をもつて、別紙人名簿に記載した申請人組合所属の組合員に対して解雇の通告をした。右解雇の意思表示は次の二点において無効である。

(一)  昭和二十三年三月一日、申請人の属する東芝労働組合連合会と被申請会社間に締結された労働協約第四条には「会社は、組合員を解雇し又は転任せしめんとする場合は、予め組合の同意を得るものとする。」と規定されている。しかるに、被申請会社の前記解雇は、組合の同意は勿論、協議すら経ておらない。

(二)  右解雇の通告状には次の趣旨のことが記載されている。「経営合理化に伴う人員整理のため、貴殿を昭和二十四年七月二十二日限り解雇する。ただし、七月二十一日までに退職願を出せば、依願解傭として取扱う。解雇の場合は、退職慰労金及び臨時給与金のうち予告手当は即時支払うが、残りの臨時給与金は月賦払とする。依願解傭の場合は退職慰労金及び臨時給与金を〇・五月分増額した上全額一時払する。」通知は、このように、退職願を提出したものと、しない者との間に、退職金の額及び支給方法に差別をつけている。

しかし、組合員が、組合との協議を経ない解雇に反対し、その取消を要求する等の組合活動にでることは当然である。右の通告は、この正当な組合活動を行つた者に対して不利益な取扱をする不当労働行為である。

よつて、申請人は、被申請会社に対して、解雇無効確認の訴を提起せんとするが、その判決確定まで、このまま推移すれば、別紙目録記載の人員は、被申請会社から解雇者として扱われ、給料の支払は停止され、著しい損害を受けることは必至であるから、これを避けるため、右解雇の意思表示の効力を停止する旨の仮の地位を定める仮処分を求める。というにある。

よつて、先づ労働協約違反との主張につき判断するに、疏甲第二号証(労働協約書)によれば、昭和二十三年三月一日、東芝労働組合連合会と被申請会社間に締結された労働協約第四条に申請人主張の条項の存することが認められるが、一方同協約第二十二条には、本協約の有効期間は一ケ月とする。期間満了前までに協約の終了について申出がないときは、一ケ月毎に更新され、一方から前記申出があつても、新協約が締結されるまでは本協約を有効とする旨の条項の存することが認められるところ、疏第五号証の一及び第五号証の二のイによれば、右条項にもとずき、被申請会社は、昭和二十四年二月十五日附で同年三月以後本協約を更新しない旨の通知をし、自動的延長状態にはいつた後、次いで昭和二十四年六月二十日附で、本協約の効力を失わせる旨の意思表示を行つたことが認められるから、前記協約は新労働組合法第十五条第二項本文によつて、昭和二十四年六月下旬失効したものと認めなければならない。よつて右労働協約の存在を前提とし、これに違反することを理由とする主張は認容できない。

次いで、右解雇が、不当労働行為であるとの主張について判断するに疏甲第七号証によれば、被申請会社が、申請人主張通りの解雇通告をしたことが認められ、同通告によれば、退職願を出したものと、出さない者とを、退職金の額及び支払方法において差別していること明らかであるが、解雇そのものは、解雇の対象となつた従業員が、労働組合員であると否と又労働組合の行為をしたと否とを問わないものであるから、労働組合の正当な行為をしたことを理由とするものとはいえない。従つて解雇の意思表示そのものは、不当労働行為に該当しない。退職金支給に関して差別がされている点で、新労働組合法にもとずき、労働委員会に、平等の退職金支給を受けるため救済命令を求めることができる否かは別問題であるが、仮令退職金支給の点において不法があるとしても前記解雇の意思表示そのものの効力を左右するに足らない。

以上認定のように、解雇の意思表示が無効であるとは認められないから、これが無効を前提とする申請人の仮処分申請は、この点において理由なく却下を免れない。よつて申請費用について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように決定する。

別紙人名簿省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例